Classici giapponesi con furigana
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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
Leggi 夜の靴 (よるのくつ) di 横光 利一 (よこみつりいち) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 107.056 caratteri · 213 schermate
背景の宿が宿で、私はまだこんな温泉宿というものを見たことがない。泥宿めいた混雑の中にこうしている男が、私の荷主になるのかと思うと、少し私も躊躇した。誤れば私の財産の半分はこれで失うのだ。
「荷物が東京へ着いてから、私の家まで運送するのが面倒で、それに困っているのですがね、運送屋をお世話願えませんか。」と私は云ってみた。
「ええ、しましょう。」と、一言ぼつりという。
それだけだ。一つ東京の住所をここへ書いて貰いたいと私は云って手帖を出した。男は鉛筆を受けとりすらすらと名と住所とを書きつけた。意外に良い字だ。悪い男はこのような字を書けるものではない。私は多少それで、この男は見かけによらぬ善良な人物だと信用する気になった。
貨車賃を等分にし、駅までの運搬その他、必要事項を定めるときにも、
「貨車賃は要りませんよ。どうせ、わたしの方は送るついでですから。」とそう男がいう。
炉の中で枯松葉が良い匂いを立てている。その匂いがまた善かった。私は帰ろうとして立ちかけると、
「米は?」と男は訊ねた。
「米は入れてないですよ。」
「どうして?」いぶかしそうにまた訊ねる。
「買う暇もなし、何とかなるでしょう。