Classici giapponesi con furigana
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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
Leggi 夜の靴 (よるのくつ) di 横光 利一 (よこみつりいち) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 107.056 caratteri · 213 schermate
疲れるのよそれはそれは。」妻のいつもの歎きが始まったのだ。
ここから見える隣家の宗左衛門のあばの家では、長男が結婚した翌日出征して、嫁が義母と一緒に今もいるが、夫婦はただの一日一緒にいたきりである。私の妻も同時にそれを思い出したと見えて、
「あそこでは、たった一日よ御一緒。どうでしょう。」と一寸首を縮めて私を見た。
私は戦争中のある日、銀座のある洋食店で夕食を摂ろうとして、料理の出るまで一人ぼんやり壁を見ていたひとときの事をふと思い出した。壁にはミレーの晩鐘の版画がかかっていた。私は日ごろからこのバルビゾン派の画類には一度も感動を覚えたことがなかったに拘らず、野末の向うに見える寺院の尖塔を背景に、黙祷をささげている若い夫婦の農衣姿の慎しやかな美しさに、突然われを忘れた感動を覚えたことがあった。私は自分の生活して来た記憶の絵の中から、これと似たことがどこにあったかと考えてみたが、暫くは、容易に私には泛ばなかった。しかし、何ぜまたこれほどの簡単な幸福と清浄さが私にも人にも得られないのだろうか。何の特殊な難しさでもないものをと私はそのとき考え込んだ。良い宗教がないからか。