Classici giapponesi con furigana
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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Leggi 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) di 野村 胡堂 (のむらこどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 11.531 caratteri · 23 schermate
「そんな公卿華族はあったようね、でも、私は知りませんワ」
さり気ない調子でこう答える矢留瀬苗子だったのです。
その年の秋には、京極三太郎は巧みに社用を拵えて、熱海のさる宿屋に矢留瀬苗子を待って居りました。
その日の夜汽車で、同じ宿屋に飛込んだ矢留瀬苗子は、女中の姿が見えなくなると、
「随分待って?」
飛びつくように、京極三太郎の腕の中に身を投げかけて、その激しい抱擁に任せるのでした。
京極三太郎の前に、遊星地球は三度ばかり空廻りしました。天地は悉くコールド・クリームの匂いになって、紅い唇だけを蜜のように意識したのです。
だが併し、何という古風なことでしょう。二人はまだ結婚前であるとの理由で、粋をきかした女中の取扱いにも拘らず、わざと床を二つ敷かして、一間半も離れたまま、イプセンとベルリオーズと夏目漱石の話をして夜を更かしてしまったのです。
二人は神聖なままで、翌る日熱海から東京行の汽車に乗りました。恐ろしい物足りなさと、妙な誇らしさを持って、――宿帳に本名を記入した二人の神聖を、恐らく誰も信じてはくれまいということなどは夢にも思わずに、汽車の中までアンダーセンとスクリアビンと夏目漱石の話を持ち込み乍ら、――何という途方もない恋人達でしょう。