Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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まぼろしのたて

幻影の盾

夏目 漱石

Leggi 幻影の盾 (まぼろしのたて) di Natsume Sōseki (夏目 漱石) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 22.372 caratteri · 45 schermate

Aozora Bunko

動くものは必ず鳴ると見えるに、蛇の毛は悉く動いているからその音も蛇の毛の数だけはある筈であるが――如何にも低い。前の世の耳語きを奈落の底から夢の間に伝える様に聞かれる。ウィリアムは茫然としてこの微音を聞いている。戦も忘れ、盾も忘れ、我身をも忘れ、戸口に人足の留ったも忘れて聞いている。ことことと戸を敲くものがある。ウィリアムは魔がついた様な顔をして動こうともしない。ことことと再び敲く。ウィリアムは両手に紙片を捧げたまま椅子を離れて立ち上る。夢中に行く人の如く、身を向けて戸口の方に三歩ばかり近寄る。眼は戸の真中を見ているが瞳孔に写って脳裏に印する影は戸ではあるまい。外の方では気が急くか、厚い樫の扉を拳にて会釈なく夜陰に響けと叩く。三度目に敲いた音が、物静かな夜を四方に破ったとき、偶像の如きウィリアムは氷盤を空裏に撃砕する如く一時に吾に返った。紙片を急に懐へかくす。敲く音は益逼って絶間なく響く。開けぬかと云う声さえ聞える。

「戸を敲くは誰ぞ」と鉄の栓張をからりと外す。切り岸の様な額の上に、赤黒き髪の斜めにかかる下から、鋭どく光る二つの眼が遠慮なく部屋の中へ進んで来る。