Classici giapponesi con furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Leggi 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 193.050 caratteri · 383 schermate
また義兄は、以後もずっと左右田銀行へ通勤をつづけていたが、時々、小田原の養家先へ帰ることが多かった。ある時は何か沈痛な調子で父から、「政広、頼むよ」と云われて出て行ったこともある。父の頼みは、金策であったのだ。しかし、養家先の資産や山林は、義兄の意のままにはならないので、この方の金策はついにさいごまでどうにもならず仕舞いであった。――そればかりでなく、窮地に立った義兄はやがて出奔して、以後三十年余も、姿をかくしてしまったのであるが、その義兄の出奔は、もすこし後の事であった。
とにかく、ぼくらの家庭は、道具の売り喰いという定石どおりな所まで来ていたのである。それが二た月に一度か三月目ぐらいの深夜の物音となるのだった。
道具屋もどこかよほど遠方から呼んで来たものにちがいない。見栄坊な父は、近所の人目は元より家族らにも、母以外には、知られたくなかったのだろう。で、昼間はいけない、真夜半にという考えだったものとみえる。
道具の売り方も、父のは一風変っていた。まず二階の一部屋から売り初めたのであるが、「――この一部屋でいくら?」と値をつけさせたものだという。