Classici giapponesi con furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Leggi 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 193.050 caratteri · 383 schermate
言語に絶するなどは、ちと誇張めいた云い方のようだが、何しろその子は、狸のように腹ばかり大きく出ていて、いくら食べさせてもすぐ食べたがり、朝から晩まで、お婆さんのような泣き皺を作って、食物ばかり欲しがるのだった。こういう特異児の持ちまえで、肛門筋が無知覚にひとしく、その世話だけにも、母は追われ通しの姿であった。
しかし、貧乏と、これだけの事だったら、まだまだ母は働き効いもあったろう。が、義兄の置き去り子が来てから、更に悲惨を加えたのは、病人の父が、時々、我慢がならないように起き上がって、その子を折檻する時の、何ともいえない悲鳴と家じゅうの暗さだった。
畸形の子は、手離しでは置けないので、藁で編んだお飯櫃入れの中に入れて、食事も口へ入れてやるのであった。機嫌のいい日は滅多になく、のべつ、おひつの中でシュクシュク食物を泣きせがんでいる。父にはそのシュクシュクが昼夜なき呵責に聞えるのではあるまいか。
父にすれば、この数奇な孫は、自分の過去を責める獄卒か因果の変形みたいに思われた事でもあろう。――実父の自分を裏切った上、こんな置き土産まで残して行った、ぼくの義兄政広の出奔という事が、どんなに病床の父を、やりばない怒りに悶えさせたことか。