Classici giapponesi con furigana
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あいのごとく
愛のごとく
山川 方夫
Leggi 愛のごとく (あいのごとく) di 山川 方夫 (やまかわまさお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 103.908 caratteri · 210 schermate
「久保さんは、どうです」
一人が私に声をかけた。私は首をふった。私はなにもしゃべりたくなかった。
人びとが取り沙汰する自殺の理由などは、どうでもよかった。私は真理子が助かるのも、助からぬのも思っていたのではなかった。そのとき、私はほとんど真理子について考えていたのではなかった。
私は、暮れかけた街に早くもネオンや明りが点りはじめ、さわやかな風が街路樹の梢をかるくこだまさせて渡って行った風景、何も知らず私が感覚に触れさせてきた今日の時間を思い出そうとしていた。私はその日、朝をしらなかった。ホテルの窓から見えた踏切りの黄と黒のだんだらに塗り分けられた竹竿、赤い化粧瓦の上を這っていた一匹の黒い大きな蟻、午後の染まるように美しく晴れた青空。だが、といってそれらは特別なものでもなく、それらが意味をもち私に集ってくることもなかった。それらは真理子の存在も不在も証しているのではなかった。それらは、すでに無意味な遠いなにかの形骸であるにすぎず、そして私には、同様に真理子もかすかに外見を遠望させている一つの風物としてしかとらえられなかった。私は、舗道に硬いヒールの底をうちつけるようにして歩いていたさっきの女さえも、もはやとりたてて思いうかべてみることができなかった。