Classici giapponesi con furigana
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あるおとこのしゅき
或る男の手記
豊島 与志雄
Leggi 或る男の手記 (あるおとこのしゅき) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 43.279 caratteri · 86 schermate
でも昨日はとうとう逃げ出してしまいましたわ。それまでに幾度逃げ出そうとしたか分りません。松本さんは私が前に手紙でそんなことを少しも匂わせなかったと云って、少し疑っていらっしゃるようですけれど……そのためかも知れませんわ、私に過去のことをいろいろお聞きなすった。のは。男には女の心なんか分らないでしょうかしら。私がそれまで隠してたのは、事を荒立てたり松本さんに心配さしたりしたくないというだけで、外に訳は何もないんですの。でもやっぱり駄目でしたわ。一昨日の晩は愈々困ってしまいました。夜の二時頃までお酒を召上っていらしたが、餉台の上の小皿を一枚ふいに取上げて、いきなり側の鉄の火鉢に投げつけて、粉微塵に壊しておしまいなすったんです。何でも、差された杯の酒を私が飲まないとか何とか、そんな風なことだったんです。でも私にはその乱暴が、全く不意だったものですから、すっかりまごついたせいか、自分でもよく分りませんが、急に変な気持になって、その杯の酒をぐっと飲んでしまいましたの。後ではっとしましたが、もう追っつきません。河野さんは恐い眼付で私の方をじろりと見て、うむ、お前が皿一枚に一杯ずつ飲むなら、夜明けまでに何枚でも壊してやると、こうなんでしょう。