Classici giapponesi con furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Leggi 旅愁 (りょしゅう) di 横光 利一 (よこみつりいち) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 576.941 caratteri · 1138 schermate
と一人の船員が説明した。
「マルセーユはどこですか。」と一人が訊ねた。
「もうすぐです。この島はマルセーユの外郭です。」
「セメントでも出そうなところですね。」と矢代は云うと、
「そうです。マルセーユはセメントの産地ですから。たしかにそう見えましょうな。」
と船員が答えた。大きな波が一うねりどっと来ればたちまち姿を没しそうな小さな島が、当時の偉人を幽閉するに恰好な島だとは、矢代も、それ一つでこの国の優雅さがすでに頭に這入って来るのだった。
船が島を廻ると長方形のマルセーユの内港が、波も静かに明るい日光の中に見えて来た。船は速力をゆるめ徐徐に鴎の群れている港の中に這入っていった。鍵形に曲った突堤と埠頭の両側から、吊り橋のように起重機が連り下っている。その向うの各国の汽船のぎっしり身をせばめて並んでいる中に今やこれから日本へ帰ろうとする香取丸が、慓悍な黒い小さな船尾だけ覗かせ煙を吐いて泊っていた。あの科学の塊りのように見えていた汽船が、今は無科学の生物のように見えて来る。
「香取がもう立ちますよ。日本へ帰るんですよ。」
と船員が、もうすっかり日本を忘れてしまっている皆の船客たちに歯痒ゆそうな声で報らせた。