Classici giapponesi con furigana
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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
Leggi 日本の怪談 (ぎじんのすがた) di 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 56.030 caratteri · 115 schermate
石を重りにして磧へ着けてあった渡舟の傍へ往くと、常七は踞(かが)んで重りの石を持って舟へ乗り、それから水棹(さお)を張った。
「渡船……」
三度目の声が鼓膜を慄わして響いた。
「お――い」
舟は中流へ出た。常七は水棹を櫓に代えて斜に流れを切って舟をやった。舟はむこうの水際へ往った。舟底が磧の石にじゃりじやりと音をさした。常七は艫へ立って水棹を突張って客の来るのを待っていた。
「舟の用意はいいか」
何処からともなしに云った。常七はその威に打たれて、
「よろしゅうございます」
と云った。数人の人が舟へ乗り移るような物の気配がして舟が重くなったが、別に人の姿は見えなかった。常七は己(じぶん)の眼の故意(せい)ではないかと思って舟の中を見直した。それでも物の影はなかった。
「急いでむこうの岸へ渡せ」
直ぐ傍で声がしたが、やっぱり物の影も見えない。常七は水棹を持った手をわなわなと慄わした。そして、夢中になって舟を出した。
「これは、蓮池左京殿でござるぞ、不義奸侫の奴ばらに、眼にもの見せんと大高坂へお越になるところじゃ、今にその方達の耳へも、不思議なことが聞えて来るが、その方達にはお咎めがないから、恐れをことはない、帰りにもこの舟に召されるぞ」