Classici giapponesi con furigana
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はやみみさんじとりものききがき
早耳三次捕物聞書
林 不忘
Leggi 早耳三次捕物聞書 (はやみみさんじとりものききがき) di 林 不忘 (はやしふぼう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 10.640 caratteri · 21 schermate
「おうっ、辰がいねえぞ。」
誰かがこう言って辺りを見廻した。それにつれて皆が騒ぎだした。
「このどさくさに寝ている者は辰でもなけりゃありゃしねえ――辰やあい。」
「蜻蛉うっ。」
「辰うっ!」
「とんぼ、つんぼ!」
長屋の衆が口々に喚くのを三次は鋭く押さえておいて、つと足許の水桶に眼を落した。
釣瓶繩のさきについている井戸の水汲桶である。これにお菊の死骸を結んで沈めたのだから、桶一杯の水が紫色に濁っていたが、三次が足を掛けて水を溢すと、底から、お菊の黒塗の日和下駄が片方だけ出て来た。
誰もお菊の帰って来たのを見た者はなかった。留守をしていた父親七兵衛は、あまり帰宅が遅いのでてっきり小梅に泊ることと思い、昨夜は寒さも格別だったから早く締りをして先に寝たものらしいが、年ごろの娘がそう更けてから夜道を帰って来るとも思われないから、まず七兵衛初め長屋の者の寝入初、この井戸端で水音がしたという亥の上刻は四つごろの出来事であろうと、三次はその日和下駄を凝視めながら考えた。
井戸にでも落ちたか、片っぽの下駄はどこを探してもない。二つ折れに屈んで地面を検べると、井戸の縁に片足かけて刀に滴る血潮を振り裁いたものとみえて、どす黒い点が土の上を一列に走ってもよりの油障子の腰板へ跳ねて、障子の把手にも歴然と血の手形が付いていた。