Classici giapponesi con furigana
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ばんしゅん
晩春
岡本 かの子
Leggi 晩春 (ばんしゅん) di 岡本 かの子 (おかもとかのこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 1721 caratteri · 4 schermate
うっとりとした晩春の空気を驚かして西隣に在る製板所の丸鋸が、けたたましい音を立てて材木を噛じり始めた。その音が自分の頭から体を真二つに引き裂くように感じて鈴子は思わず顔が赤くなり、幾分ゆるめていた体を引き締め、開きめの両膝をぴったりと付ける、とたんにもくもくと眼近くの堀の底から濁りが起ってボラのような泥色の魚がすっと通り過ぎた。鈴子は息を呑んで、今一度、その魚の現われて来るのを待ち構えた。
「鈴ちゃん、また堀を覗いている。そんなに魚が見度かったら、水族館へでも行けば好いじゃないか。順ちゃんがね、また喘息を起したからお医者へ連れて行ってお呉れ」
忙がしく母親が呼ぶ声を聞いて鈴子は「あ、またか」と思った。六歳になる一人の弟の順一が昨年の春、百日咳にかかって以来、喘息持ちになって、何時発作を起すか判らないので誰か必ず附いていなければならない。
このお守りさんの為めにも鈴子は姉として母親代りに面倒を見なければならなかった。女学校を出て既に三四年もたち、自分の体を早くどうにか片付けなければならない大事な時期だというのに、弟のお守りなんかに日を送っていることはつらかった。