Classici giapponesi con furigana
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しいのき
椎の木
豊島 与志雄
Leggi 椎の木 (しいのき) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 25.870 caratteri · 52 schermate
一
牧野良一は、奥日光の旅から帰ると、ゆっくり四五日かかって、書信の整理をしたり、勉強のプランをたてたりして、それから、まっさきに、川村さんを訪れてみた。
川村さんはもう五十近い年頃で、妻も子もなく、独りで老婢をやとって暮していた。学者だが、何が専門で何が本職だか分らなかった。書斎にはいろんな書物がぎっしり並んでおり、雑誌や新聞に詩や批評や随筆などいろいろなものを書き、私立大学に少しばかり勤めていた。ひどく真面目なところと出たらめなところとがあった。その川村さんを、良一は尊敬もし好きであった。自分の遠縁にあたるのが自慢だった。
風のない薄曇りの日で、雪にでもなりそうな底冷があった。良一はマントの襟を立てて、川村さんの家へ急いだ。
老婢が出て来た。暫く考えてから答えた。
「いま、お留守ですよ。あとで電話をかけてごらんなさい。」
この婆や、いつもとぼけた奴だが、留守なのにあとで電話をしろとはおかしかった。だが、良一はそのまま、暫く外を歩き、それから見当り次第の喫茶店にはいり、時間をつぶして、電話をかけて見た。すぐに来てよろしいとの返事だった。