Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

Leggi 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 178.609 caratteri · 362 schermate

Aozora Bunko

わざと、道頓堀の人混みへはいって、細い路地から千日原まで抜けて来た。そして、はじめて、豆絞りをつかんで、腋の下の汗を拭きながら、

「ああ、びっくりした」

と、呟いた。

歯磨き売りや、古着屋や、野天にいろいろな露店が出ていた。治郎吉の眼は、まだ落着かずに、そんなものにまで、気をくばりながら、草むらへ、手拭を敷いて、両膝を抱えこんだ。

「はてな……」

来たら――と脇差の鯉口を切って、逃げる先の先まで、微細な工夫をしていたが、こう見まわしたところでは、ひとりとして自分へ向って光って来る眼はなかった。岡ッ引くさい者も、捕手くさい人間も通りはしなかった。

「こいつあ、大笑いだ」

治郎吉は、自分へ嗤った。

「ふた月も、稼ぎを忘れて、燗徳利みてえに、湯にばかりつかっていたせいか、俺も、すこし焼きが戻ったよ。……だが、驚くのも無理はねえ。床屋の奥に、紺足袋で、茶縞の侍と来た日にゃ、誰だって、脛に傷のあるやつなら、奉行所風と思うのは当りめえだ」

しかし、それはまったく、勘違いだと彼にも分った。治郎吉は、自分の早合点がおかしくなると共に、あの侍は、何者だろうと考えた。居候にしては、刀が上物すぎるし、着物も渋い。