Classici giapponesi con furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Leggi 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 178.609 caratteri · 362 schermate
九
「おっ母、これだ……」
百は、手を拝せて、
「おらのやった、悪いこたあ、きっと仕事でとり返すから」
「そんなにまで」
「面目ねえが、おら、どうしても」
百は、爪を噛んだ。焼金をたたく金敷のうえに、ぽろぽろと、涙がこぼれた。
いじらしそうに、おしげは、
「馬鹿よ、なんで泣いたり、こッぱずかしい事がある。ぬしが好きという嫁に、わしが苦情をいうわけもねえだに。――ただ、この貧乏へもって来て、百両という大借金ができちまっては、今すぐに、嫁娶るさわぎも」
「いってくれんな、おっ母、そのことはのみ込んでるんだ。きっと、おらが、稼ぎ出してみせる。――この槌が焼けるほど、働いてみせる」
「それさえ聞けば……」
「おらだって、もう嫁娶る年だもの、おっ母に、心配顔をされると、野鍛冶の槌が、よけいに鈍る」
九
すすきは伸びて、夜のような夏草に、夜ごと、更けるのを知らない野鍛冶の家からふいごの火が、真っ赤に映る。
火華は、雨の夜もとんで、
テーン、テーン、テーン
カアン、カアン
と一つ槌の音が、必死にひびく。
その槌音は、百のたましいだった。百のたましいは槌音だった。明けても暮れても、野末にそれが聞えぬ日はなかった。