Classici giapponesi con furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Leggi 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 178.609 caratteri · 362 schermate
かつんと、仁吉の膝がしらに、石でも割れたような音がした。二度目の刀は、肩さきへ来た。仁吉は、尻もちをつきながら、匕首で月光を斬った。
「――ひッ、人殺しだあっ」
絶叫が、月の安治川から、海へ走った。
「けッ、女々しい声を出しやがる。病人を斬って逃げ出すような、ケチな盗ッ人ほど不愍なものはねえ。せめて、俺ぐらいにあやかるように、もう一度、生れ直して来い」
五ツ六ツ、撲るように刀でたたくと、仁吉の体は、魚の臓物のように、船底に俯つ伏して、声も音も消してしまった。
白い月と、川波と、そして、お喜乃の銀釵が、かすかに、ふるえているばかりである。
ざぶりっ、と舷から手を洗って、
「あ、もう来やがった」
と、治郎吉は、帯を締め直した。
船番所が近いので、案外に早かった。蕭条たる蘆のあいだを、捕手の灯が、いっさんに岸へ廻りはじめている。
「まごついちゃいられねえ」と、死骸を蹴落して、艪をつかんで、
「お喜乃さん、何処へ送ろうか」
「……もしっ」
ふいに、盲目的に、彼女は、治郎吉の裾にすがりついた。
「どこへでも」
「えっ」
治郎吉は、躍るような快感と、満足に、思わず口走った。