Classici giapponesi con furigana
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かいなんき
海難記
久生 十蘭
Leggi 海難記 (かいなんき) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 28.628 caratteri · 56 schermate
ているところも、誰一人見ていないのである。文章がうますぎるということには、問題はあるまい。そういう困難な状況にあると、誰でもいちどは幻覚をみるものだから、そのほうにも異存はないが、この日記はかならずしも素朴な事実だけを書きとめているのでないことが、いろいろな点から察しがつく。
ブレディフ氏は沙漠の行進中、なにか卑劣な行為、たとえば残忍な殺し合いだとか、息のある仲間を遺棄して前進するとか、あるいはもっとひどいことが行なわれたらしいとき、かならず一種の失神状態におちいり、山の雲だとか、虹だとか、木蔭の泉だとか、そういう詩的な幻想にひたってすごすようになっている。何日かの陸行の間、結局のところブレディフ氏はなにひとつ仲間の非人道的な行為を自覚していないなどというのがその例である。
これも陸行組のアングラス中尉の手記。
アングラス中尉は地方人を含めた六十人ばかりの一隊の指揮をとることになったが、出発前、こういう訓示を与えたといっている。
「ひどい不運がわれわれをつけまわしている。一つすましたと思うと、こんな風にすぐつぎのがやってくる。溺死することだけはまぬかれたが、こういう沙漠のありかたでは、食物も水も期待できないかもしれない。