Classici giapponesi con furigana
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こはん
湖畔
久生 十蘭
Leggi 湖畔 (こはん) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 24.180 caratteri · 47 schermate
自ら手こそ下さなかったが、行末、長く咲くべかりし清純の花を、おのれ一個の体裁をつくろうために、無残にも摘取って地獄の口へ追いやってしまった。自ら手を下した死体の前に坐っていても、これほどの慙愧の念は感じられまい。地獄の口が一旦嚥みこんだものを吐きだし、このようにも悲惨な有様にしてワザワザ俺の前に持ち運んだのは、それによって退ッ引ならぬ証拠を眼前に突きつけ、酷薄卑劣な罪業をいちいち思い当らせようとしているのに違いない。して見れば、この骸の上に残された傷も、汚点も、腐爛も、みな俺の臆病、卑劣、虚飾、自己心によって成された罪の紋章であらねばならぬ。
間もなく検視官と屯所の医師がやってきて、型のような検視を行った。それが終って陶の身体を棺に納めようとするとき、一塊の肉が脛から剥離してポロリと戸板の上に落ちた。俺は袖で顔を蔽って泣いた。
陶が生きていると思っていた間は、さしたる感情もなかったが、もうこの世に居ぬ、この世では逢うことが出来ぬと思うと、後悔とも愛憐とも名状のつかぬ思いが湧涌してとめることが出来ぬ。俺はこの湖畔ではじめて陶に逢い、この湖畔で陶に別れることになッた。