Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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みおつくし

澪標・落日の光景

外村 繁

Leggi 澪標・落日の光景 (みおつくし) di 外村 繁 (とのむらしげる) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 130.889 caratteri · 268 schermate

Aozora Bunko

鬼も恐しかった。幽霊も、人魂も、死びとも恐しかった。しかしそれ等の恐しいものは、決って暗いところにいたようで、もとより視覚的記憶はない。二丈坊や、ろくろっ首の記憶にしても、仮りにその形を描き得たとしても、それは後年の修飾である。しかし幼年期の、形のない、あの漠然とした恐怖の記憶は、今も朦朧と、しかし確かに残っている。

六つの時、母が大病になった。ある夜、母が私の手を引いて、祖母の夢枕に立ったという。つまりそんな危険な状態がかなりの間続いたらしい。しかし母の大病や、その危機感についての記憶は全くない。その時、私達兄弟は祖母の許に預けられていた由であるが、その記憶もない。しかしその時も、その所も不明であるが、幼年期の、自分一人取り残されたような悲哀の記憶は、今も朦朧と、しかし確かに残っている。

私の家の宗旨は浄土真宗である。黒暗の闇の中に埋もれてしまった、私の幼い日日にも、読経の声は聞えていたはずである。蝋燭の光も揺れていたことであろう。線香の香も漂うていたことであろう。鈴の音もあのきれいな余韻を曳いていたに相違ない。しかし聴覚的な、嗅覚的な、視覚的な、明確な記憶はない。