Classici giapponesi con furigana
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ちちのかたみ
父の形見
豊島 与志雄
Leggi 父の形見 (ちちのかたみ) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 6879 caratteri · 14 schermate
父もその女も、初心者ではなかったが、愛というものはいつも同じで、いつも若々しい。二人ともいやにしみじみとした気持で、一寸したことにも涙ぐみそうだった。
僕はもうとてもいけない。とそんなことを父は云い出した。始終君のことばかり考えていけない、とも云った。あたしもそうよ、と女も云った。それは当り前のことで、愛し合った男女が相手のことを思い出さないとしたら、どうかしている。
「始終君のことばかり考えてるようだ。たとえば、月を見ると……。」
平凡な言葉だが、それがいやにしっくり落付いて、少しもおかしくなかった。大真面目なのだ。
「月を見ると、先ず君に見せたいと思って、そして一人でつくづく眺める。花を見ると、先ず君に見せたいと思って、そして一人でつくづく眺める。小鳥の声をきくと、先ず君に聞かしたいと思って、そして一人じっと聞く。うまい物をたべると、先ず君にたべさせたいと思って、そして一人でゆっくりたべる。腹が痛むと……。」
とぎれたところへ、彼女がふいに云った。
「腹が痛むと……。」
父は何とも云えない変な顔をした。彼女はくく……と笑って、それから急にははははと笑いだした。