Classici giapponesi con furigana
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いちろうじん
犬田卯短編集二
犬田 卯
Leggi 犬田卯短編集二 (いちろうじん) di 犬田 卯 (いぬたしげる) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 51.383 caratteri · 103 schermate
十円は母からことずかって兄貴と自分の野良着に仕立てる紺木綿を買う予定のもの、そして残りの五円なにがしこそ、この前買えなくて、ただ「この次に買うから誰にも売らないで……」と念を押しておいた例のレーヨン錦紗のために、二週日以来傍目もふらずにかせぎためた虎の子だったのである。実際彼女はその五円のためには見栄も外聞もかまっていなかった。町へ豚売りに行く兄貴の曳く荷車のあとを押したり、母親が丹精している鶏の卵を半数だけ貰うことにきめてその餌を調達したり、朝鮮人の屑屋に親の代から押入の奥に突っ込まれていたような種々の廃品を引っ張り出して一銭を争いながら売り払ったり、そんなことをしてようやく蓄め上げたものだった。黒地に渦巻く水流と浮動する落花とたなびく雲のたたずまいをあしらい、その表面へ大きく草の葉や小鳥を黄に染めぬいたその模様が、眠っても覚めてもちらついていた。誰にも売らないでおいて……と念を押しては来たものの、先方は商人である。そしてあれは商品である。一日も早く行かないことには、いつ買手がつくか分らなかった。――売れませんように、どうか、誰の眼にもつきませんように……こうして、五円という金のまとまるのがどんなに待ちどおしかったことか。