Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

Leggi 私本太平記(三) (しほんたいへいき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 222.108 caratteri · 446 schermate

Aozora Bunko

「ま。……そう」

すうと、血が引いてゆく彼女のおもてに、左の瞼へかけての、打身の痣だけが、紫陽花いろに濃く残った。

「おや、どうしたのさ。お藤さん。気もちでも悪いのかい」

「ええ、なんだか少し……」

「きっと、さっきから陽なたで洗い物していたせいだぜ。もう、暑いもんなあ。家へ入って寝るといいよ。お師匠さんは留守だから、晩のしたくもいらないしさ」

その晩だった。

寝るとすぐ命松丸は正体もない。

藤夜叉は、そっと起きて、身じたくしていた。逃げよう、先は先、それしかないと、宵に胸を決めたのだった。

命松丸のことばによれば、兼好と道誉とは、鎌倉いらいの親しい仲であるとのこと。その酒の座の雑談などで、ふと、自分の噂でも出たとしたら、それこそは大変である。うむもいわせず、佐女牛へ連れ戻されるにちがいない。

「……ごめんね、命松さん」

寝相のわるい彼の枕元の下へ、彼女は、宵に書いておいた仮名文の幼稚な置き手紙をしのばせておき、そして勝手口から手さぐりで外へ出た。足ごしらえには、ワラ草履をくくり紐にして、手には納屋から取り出した笠と竹杖とを持っていた。

「どこへ?」

深夜の闇は、彼女の胸をあらためて糺していた。