Classici giapponesi con furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Leggi 私本太平記(五) (しほんたいへいき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 252.330 caratteri · 505 schermate
「げッ、ゲッ」
と、なんども顔を赤くしてはやり直していた。そのうちに戦場で組打ちしたときのような眉を深く彫ッたとおもうと、顔を仰に持ったまま縁から庭へ下りて行った。膝をつき、庭の石組みのあいだにかがまり、赤いよだれを垂らしては、ベッ、ベッと、懐紙で唇をふいていたのだった。
「師直、師直」
その声は遠かった。主君のにちがいない。あわてて彼は元の座へもどった。だが横着者は、あたふたもせず、何事にも寸法をとって、物事の間をこころえている風だ。おちつきこんでまだ懐紙で口をつつんでいる。
そこへ廊の渡りを小姓の姿が越えて来て「殿がお待ちです」と、彼につたえた。いつも会う所は、薔薇園へ面している東の書院であった。――が尊氏は、その書院へゆく途中の角廊に立っていて、彼を見ると、
「なにしていたのだ」
と、すぐたずねた。
師直は、遠くから見られていたとは思わず「いや、べつに」と、尊氏のあとについて書院に入り、下の座について、行儀を作った。そしてうやうやしく朝のあいさつを述べ終ると、尊氏は、
「師直」
と、また笑って。
「木像蟹が庭の流れで小蟹と遊んでいるわえとホホ笑まれたぞ。