Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

Leggi 私本太平記 (しほんたいへいき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 126.598 caratteri · 254 schermate

Aozora Bunko

ま、お涼やかに、冷やし瓜なと召しあがって、少々お待ちなされませ」

ほどなく、なだめて、彼女はほかの用に立った。

「…………」

下の沢で、蜩が啼く。

邸内は、豪族の山館として、いいぶんのないほど広い。表は金剛への、山街道に面し、裏は深い断層をなした崖下を、千早川が流れていた。――だからそこの書院では、いながらに、金剛、葛城、そして峰つづきの水越峠までが、対坐のすがたで、一望に眺められる。

「……見飽きたなあ、家の黒い天井も、彼方の山波も」

ここに坐ると、若い彼には、耐え難いものがあった。

蜩の声は、壮年期の弔歌に聞え、都を中心とする時の潮鳴りが、山の静寂とは逆に、心へ底波を打ってくる。

た、た、た、と飛ぶような跫音が、そのとき、こっちへ向って来た。

「龍泉のおじさま」

元気のいい、八、九歳の童子の眼が、内をのぞいて。

「オヤ、欠伸してんのか。お父君が帰って来たのに。さ、おじさまも早くいらっしゃい」

「やあ、帰られたか」

やっと地顔に返って、正季がそこを立ち出ると、童子はすぐ後ろへ廻り、彼の腰を押して、トットと長い廊を駈け出させた。――正成の嫡男、後の正行、幼名多聞丸だった。