Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

Leggi 肌色の月 (はだいろのつき) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 50.706 caratteri · 101 schermate

Aozora Bunko

久美子が車のそばまで行くと、格子縞のハンティングをかぶった、いかにもスポーティな初老の紳士が脇窓から声をかけた。

「どこへ行くんです」

「湖水へ」

「ひどく濡れたね。お乗んなさい。私も湖水へ行く」

「こんな雨ぐらい、なんでもないわ」

「なんでもないことはない。そんなことをしていると風邪をひく。遠慮しないで乗りたまえ」

振りきってしまいたかったが、これ以上断るのはいささか不自然だ。うるさいひっかかりにならなければいいがと思いながら、おそるおそる車の中に身を入れた。

「すみません」

久美子が運転席に腰を落ちつけると、車が走りだした。

「体力で絵を描くのだというが、なるほど、たいへんなものだね、雨の中を湖水まで歩いて行こうという元気は……あなた東京ですか」

「はあ、東京です」

久美子はうるさくなって、素っ気ない返事をした。紳士のほうも、ものをいう興味を失ったのだとみえて、黙りこんでしまった。

雨がやんで雲切れがし、道のむこうが明るくなったと思ったら、天城の裾野のこじんまりとした湖の風景が、だしぬけに眼の前に迫ってきた。

周囲一里ほどの深くすんだ湖水が、道端からいきなりにはじまり、岸だというしるしに、菱や水蓮が水面も見えないほど簇生している。