Classici giapponesi con furigana
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きくやしき
菊屋敷
山本 周五郎
Leggi 菊屋敷 (きくやしき) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 36.620 caratteri · 71 schermate
云いだせずにしまった」
庭はずれの垣の外を、城下へ荷を積んでゆくのだろう、四五人の農夫たちが通りかかった、
「ああよく匂うな、菊屋敷の菊が咲きだしたぞ」ひとりがそう云うと、老人とみえるひとりが間をおいて、「今年はどこでも遅いだ」と云った、「……陽気がおくれてるだからな、けれどもこういう年は雪が多いもんだ、つまり来年は豊作ということになるだよ」そしてゆったりとした馬の蹄の音が、道を曲ってしだいに遠く去っていった。
――あの朝もこの菊畑のなかで、垣の外を通る馬の跫音を聞いていたっけ、いつまでも霧の霽れない朝だったが……、志保はふとそのときのことを思いだした。――なんだかひじょうに幸福なことがあるような気持で、露に手を濡らしながら菊を剪っていた、お萱も「たいへん冴えざえとしたお顔つき」だと云って呉れた、そのあとであの主の知れない手紙を受け取ったのだ、正念寺へゆこうと思いきめるまでの、唆られるような気持は今でも忘れられない、……あのとき父上のご墓前へいって、手紙の主に会っていたら、……自分の運命はどうなっていたことだろう、ああ、本当に自分は今ごろどういう身の上になっていたことだろう。