Classici giapponesi con furigana
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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
Leggi 菜穂子 (なおこ) di 堀 辰雄 (ほりたつお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 88.758 caratteri · 173 schermate
しかしこの事は彼女に佗びしいとか、悔しいとか、そう云うような感情を生じさせる暇は殆どなかった。一つの想念が急に彼女の心に拡がり出していたからだった。それは自分がきょうのように何物かに魅せられたように夢中になって何か手あたりばったりの事をしつづけているうちに、一つ所にじっとしたきりでは到底考え及ばないような幾つかの人生の断面が自分の前に突然現われたり消えたりしながら、何か自分に新しい人生の道をそれとなく指し示していて呉れるように思われて来た事だった。
彼女はそんな考えに耽りながら、もうぼおっと白いもののほかは何も見えなくなり出した戸外の景色を、まだ何んという事もなしに、眺め続けていた。そうやって冷い硝子に自分の顔を押しつけるようにしているのが、彼女にはだんだん気持ちよく感ぜられて来ていた。広間のなかは彼女の顔がほてり出す程、暖かだったのだ。彼女はこう云う気持ちよさにも、自分が明日帰って行かなければならない山の療養所の吸いつくような寒さを思わずにはいられなかった。……
給仕が食事の用意の出来たことを知らせに来た。彼女は黙って頷き、急に空腹を感じ出しながら、その儘自分の部屋へは帰らずに、さっきから静かに皿の音のし出している奥の食堂の方へ向って歩き出した。