Classici giapponesi con furigana
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らくらいのあと
落雷のあと
豊島 与志雄
Leggi 落雷のあと (らくらいのあと) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 7072 caratteri · 14 schermate
彼はゆっくりと墨をすり、更にゆっくりと辞職願を書きました。一身上の都合に依り考慮する所ありてと、一字一字、墨色を眺めながら書きました。書き終ると、封筒に収めました。それから、一時間ばかりぼんやりして煙草をふかしました。
社内にはもう話し声もせず、十数名の者が、並べ据えられた長卓のあちこちに散らばって、居配りをしたり、印刷物を読んだりしていました。
立川一郎は静かに立ち上って、衝立の向うの一廓になってる、秘書主任三宅弘子のところへ行きました。彼女は或る捕物帳の本をもう何度目か繰返し読んでいました。
立川は眼を伏せて封筒を差出しました。
「これを、専務のところへ届けて下さい。」
彼女の眼がきらきらと光るように彼は皮膚に感じました。が見返しもせず、そのまま足を返しました。
帽子を右手でくるくる廻しながら、廊下を歩いていますと、彼女が追っかけて来ました。
「立川さん、これ、何ですの。」
彼の封筒を彼女は指先で器用に丁寧に持っていました。
その顔を、彼はじっと見つめました。大きく見える彼女の顔は、今はなんだか細そりして、小皺がたくさんあり、反り返った睫毛の奥に瞳が白痴めいていました。