Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

Leggi 蜘蛛の夢 (くものゆめ) di 岡本 綺堂 (おかもときどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 147.189 caratteri · 298 schermate

Aozora Bunko

「この日記の八月のところを見てくれたまえ。そうすれば大抵わかるよ。僕は急ぐから失敬する。」

客のわたしを置き去りにして、気の短い森君はカバンを引っ提げて、すたすたと玄関の方へ出て行ってしまった。森君は三十幾歳の今年まで独身で、老婢ひとりと書生一人の気楽な生活である。雑誌などへ時どき寄稿するぐらいで、別に定まった職業はない。多年懇意にしている私は、今夜もただ簡単に会釈しただけで彼を見送ろうともしなかった。老婢や書生が玄関でなにか言っているのをよそに聞きながら、わたしはその日記帳を手に取って、八月のところを探してみようとしたが、電燈の光線の工合が悪いので、わたしは初めて起ちあがって森君の机の前に坐り直した。あたかもその時に、縁側から内をのぞいている書生の顔が障子の硝子越しに黒く見えたので、わたしは笑いながら声をかけた。

「先生はもう行きましたか。」

「はあ。」

「僕はもう少しお邪魔をしていますよ。」

「どうぞごゆっくり。」と、書生の顔はすぐに消えてしまった。

わたしは書生のいう通り、ゆっくりとそこに坐り込んで森君の古い日記帳と向い合った。日記の表紙には今から十二、三年前の明治××年と記されてあった。