Classici giapponesi con furigana
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かとにん
過渡人
豊島 与志雄
Leggi 過渡人 (かとにん) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 20.206 caratteri · 41 schermate
三
「今のは戯言だよ。笹尾のことは俺も心配しているんだ。」
矢島さんはそう云って立ち上った。その時彼の顔にふっと緊張した暗い影が漂った。そして彼は書斎に入った。
然し矢島さんは間もなくまた書斎から出て来た。そして彼は、西日の当る二階の椽側で雑記帳にいたずら書きをしている慎吉を見出した。
「何を書いてるんだ。」と矢島さんは云った。
「僕写生しているんです。……教えて下さいよお父さん。」
「何を写生するんだい。」
「見えるだけの家根をみんな、それから向うの山も。」
其処からは丁度その町の南翼がずっと野に拡がっている様が一望のうちに見下された。人家がつきると畑が続いて、向うに右手に青い山が空を限っていた。
矢島さんは慎吉の手帳を取って、家根だの山だの丘などをぽつりぽつりと覚束なげに書いていった。西日を受けた野の上に山の影が次第に拡ってゆくのが見えるようであった。
慎吉は黙って父の手元を見つめていた。
三
矢島さんの会社は町の北端にあった。夏には立ち並んだ瓦家根の上を通ってくる烈風が吹きつけた。冬は雪を被った山下しの北風が野を越えてやって来た。
矢島さんの事務室は北西を向いた二階にあった。