Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

Leggi 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) di 林 不忘 (はやしふぼう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 15.998 caratteri · 32 schermate

Aozora Bunko

痛み入りまするが、せめておところとお苗字だけは――。」

「よし、よし、が、礼に来るには及ばんぞ。」

と歩き出しながら、

「大須賀玄内と申す。寺島村河内屋敷の寮に食人の、天下晴れての浪々の身じゃ、はっはっは。」

あとの笑い声は、折柄の濃い戌の刻の暗黒に、潮鳴りのように消えて行った。と、それに代って底力のある謡曲の声の歩は一歩と薄れて行くのが、ぼんやり立っている伝二郎の耳へ、さながらあらたかに通って来るばかりだった。

家へ帰ったのちも、このことについては伝二郎は口を緘して語らなかった。ただ礼をしたいこころで一杯だった。ことに幾分でもあの高潔な武士の心事を疑ったのが、彼としては今さら良心に恥じられてしょうがなかった。

「何と言っても儂は士農工商の下積みじゃわい。ああ、あのお侍さんの心意気がありがたい――。」

何遍となく、口に出してこう言った後、二、三日した探梅日和に、牛の御前の長命寺へ代々の墓詣りにとだけ言い遺して、丁稚に菓子折を持たせたまま瓦町は書替御役所前の、天王様に近い養家清水屋の舗を彼はふらりと出たのであった。

「怪ったいな、伝二郎が、まあ急に菩提ごころを起いたもんや――。