Classici giapponesi con furigana
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どん・こん・ろく
鈍・根・録
宮本 百合子
Leggi 鈍・根・録 (どん・こん・ろく) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 4159 caratteri · 9 schermate
三月になってからであったか、或る日、風のたよりに宮本がひどく病気であるという噂のあること、だが何処に置かれているのかさがしても所在不明であるということが、わたしの耳にはいった。
わたしは、そのことを知らなかった前と全く同じように、次の日も朝は僅々二尺四方ばかりの冬の日向に立って五分間体操をやった。乾いた手拭で裸の胸をこすった。弁当をもくった。一人の牛盗人に向って帳面をひかえた警官が、どうだ、お前金歯があるか? 口をあいて見ろと云い、ふむ、したないのか? と訊いたら、牛盗人は一寸躊躇する風であったが、徐ろにもう一遍口をあけ、ゆっくり舌を出して見せた、その様子を格子の間から見ていたわたしは声をあげて大笑いをした。
ふだんどおり笑っている。食べている。しかも、ふっと我にかえって見ると、いつしかわたしは体じゅうに力をこめ、一心不乱に凄じく何ごとかを思い凝している。苦しいその数日の間に、謂わばわたしは、私等の結婚生活を再びその隅々まで生き直したようなものなのであった。良人と妻との間にだけ経験された様々の歓び、美しき瞬間、愚かな瞬間、それらについて、その良人を失った妻、または妻を失った良人は、互の生活にだけあるその豊富な生きた内容を誰にそっくりそのまま伝えることが出来よう。