Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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でんしゃていりゅうじょう

電車停留場

豊島 与志雄

Leggi 電車停留場 (でんしゃていりゅうじょう) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 15.082 caratteri · 31 schermate

Aozora Bunko

七月の中旬、午後からの曇り空が、降るともなく晴れるともなく、そのまま薄らいで干乾びてゆき、軽い風がぱったりと止んで、いやに蒸し暑い晩の、九時頃のことだった。満員とまではゆかなくとも、可なり客の込んでいる一台の電車が、賑やかな大通りをぬけて、街灯のまばらな終点の方へと、速力を早めて走っていた。車掌木原藤次は、自分の職務にさして気乗りがしているでもなく、さりとて屈託しているでもなく、気のない眼付で乗客や街路を眺めながら、低い声で停留場の名を呼び上げていった。今彼の心に懸ってるものは何もなかった。故郷の田舎に鋤鍬を執って働いてる、父や兄夫婦などのことも、二十七歳にしてまだ家を成さず、合宿所に起臥してる自分の身の上のことも、今日のことも明日のことも、凡て意識の外に投り出して、ただ勤務時間が終って休息が得られる時のことを、待つというほどではなく、向うから自然とやってくるのに、ぼんやり思いを走せているのだった。

その時、先刻から車掌台の横手につかまって、車の動揺にふらふらと身を任せながら、客の乗降の邪魔となってる洋服の男が、彼の眼に止った。パナマの帽子を被り、ネクタイピンを光らし、片手で窓際の鉄棒につかまり、片手を麻のズボンのポケットにつき込み、赤の短靴の先を鼻唄の調子でも取るような風に動かし、時々ふーっと酒臭い