Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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ふうちそう

風知草

宮本 百合子

Leggi 風知草 (ふうちそう) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 44.107 caratteri · 88 schermate

Aozora Bunko

――でも、もうすこしの御辛棒よ、じき無くなってよ」

重吉を励しでもするように云った。

「あなただって相当強襲なんですもの」

こわい、絶壁をやっと通過したときのように、ひろ子は体じゅう軟かに力ぬけがした。ひろ子は、重吉の膝を撫でた。

「一日じゅう、あんないやな気持で仕事していらしたの、わるかったわねえ」

「そうでもないさ」

率直に重吉は云った。

「家の近くへ来るにつれて、だんだんいやな気持になったんだ」

「そりゃそうね、ああ思えば、もう本質的に家なんてどこにもないんですもの」

うちがない、ということは、ひろ子にどっさりのことを思わせた。十月十日に解放された重吉の同志たちの主だった人々は、殆どみんな妻をもたず、従ってうちをもっていなかった。うちも妻も、闘争の永い過程にいろいろな形でこわされ、とられた。人間らしさを極限まではぎとられた。その痛苦から屈従させようと試みられた。ひろ子にしろ、つかまる度に、女の看守長にまで云われることは、重吉の妻になっているな、ということだった。一層軟かく重吉の膝に頭を埋めながら、ひろ子は、

「げんまん」

重吉に向って小指をさし出した。