Classici giapponesi con furigana
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さかなのじょぶん
魚の序文
林 芙美子
Leggi 魚の序文 (さかなのじょぶん) di 林 芙美子 (はやしふみこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 10.384 caratteri · 21 schermate
――僕は一二年前の大学生活の中に、かつて一度も生活の不安を感じた事はなかったはずだったが、いや、生活の事を考えるのが恐ろしかったのかも知れない、薄暗い珈琲店の片隅で考える事は愚にもつかない外遊の空想などばかりであった。
僕はまた、壁の帽子をかぶって、彼女の厭がるステッキを持った。墓の中の散歩をこころみるべく、僕もまた彼女の去った墓の道へ出てみた。熱ばんでたまらないと云った風に、雀達が、ころころ地べたを転がるように飛んでいる。なるほど、彼女が云ったように、新墓には草のように花がそなえてあった。もう萎えかけたのなどもある。三十歳、十五歳、十九歳、皆、若い仏達であった。その中で一ツ僕の眼をとらえた紀意大善姉と書いてある墓標があった。墓標の裏には、レニエエか何かの「浮世には思い出もあらず」と記してあったが、この言葉は今の僕の心をひどく温めてくれるものがあった。二十八歳としてあるが、どんな女性だったのだろうか……僕と同じ年齢で亡くなった、この新墓の主の墓標の言葉に、僕は全く口笛さえ吹きたくなったほど気持ちが軽くなった。
「浮世には思い出もあらず」何とすがすがしく云い放ったものであろう。