Classici giapponesi con furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Leggi 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 261.216 caratteri · 521 schermate
もうお綱の目に涙はない。生死の境に立つような、森厳な覚悟をもって、こう問いつめる。五体には、ただ恋の血が高い脈を打っているばかりだ。
弦之丞は答えに窮した。こうまでの真心をささげてくる女性に、一時のがれの嘘をいうことは、気がすまない。いや、かれの心の奥を割ってみれば、かれの心も、決してお綱を忌ってはいないのだ。むしろ、弦之丞もいつかお綱を好もしくさえ思っている。
まして、いじらしい、熱感な涙を流されれば、かれの若い心も知らず知らずに、恋のるつぼに溶かされてくるのが当然だ。けれど、お綱に恋をし、お綱の恋をうけいれていいかどうか、その思判力を失わないだけが、弦之丞の無表情に見える内悶の苦しさであり、お綱には、歯がゆい悶えであった。
「思い違いをしてはならぬ。この弦之丞は、決してそちを忌うてはいない」
かれは、遂に、こういってしまった。
「おお!」ふるえついて――「それは、真実でございますか」
「真実、わしはそなたを、憎めない」
「う、うれしゅうございます……」
ザブリと、船と苫とが揺すぶれた。
真っ青な川面を、まぐれ波が一条白くよれてゆく。そして、後に風の音があった。