Classici giapponesi con furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Leggi おせん di 邦枝 完二 (くにえだかんじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 74.074 caratteri · 148 schermate
引くてあまたの、御贔屓筋もござんしょうが、あたしゃこのままこがれ死んでも、やっぱりお前の女房でござんす」
思わず知らず、我れとわが袖を濡らした不覚の涙に、おせんは「はッ」として首を上げたが、どうやら勝手許の母の耳へは這入らなかったものか、まだ抜け切らぬ風邪の咳が二つ三つ、続けざまに聞こえたばかりであった。
しばしおせんは、俯向いたまま眼を閉じていた。その眼の底を、稲妻のように、幼い日の思い出が突ッ走った。
「おせんや」
母の声が聞かれた。
「あい」
「この暗いのに、行燈もつけずに」
「あい。さして暗くはござんせぬ」
「何をしておいでだか知らないが、支度が出来たから御飯にしようわな」
「あい、いまじきに」
「暗い所に一人でいると、鼠に引かれるよ」
隣座敷では、母が燈芯をかき立てたのであろう。障子が急に明るくなって、膳立をする音が耳に近かった。
よろめくように立上ったおせんは、窓の障子に手をかけた。と、その刹那、低いしかも聞き慣れない声が、窓の下から浮き上った。
「おせん」
「えッ」
「驚くにゃ当らねえ。おいらだよ」
おせんは、火箸のように立ちすくんでしまった。
六