Classici giapponesi con furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Leggi おせん di 邦枝 完二 (くにえだかんじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 74.074 caratteri · 148 schermate
やがて、香煙を揺がせて、恐る恐る襖の間から首を差出したのは、弟子の菊彌だった。
「お客様でございます」
「どなたが」
「谷中のおせん様」
「えッ、あの笠森の。……」
「はい」
「太夫は御病気ゆえ、お目にかかれぬと、お断りしておくれ」
するとその刹那、ぱっと眼を開いて菊之丞の、細い声が鋭く聞えた。
「いいよ。いいから、ここへお通し。――」
六
初霜を避けて、昨夜縁に上げられた白菊であろう、下葉から次第に枯れてゆく花の周囲を、静かに舞っている一匹の虻を、猫が頻りに尾を振ってじゃれる影が、障子にくっきり映っていた。
その虻の羽音を、聞くともなしに聞きながら、菊之丞の枕頭に座して、じっと寝顔に見入っていたのは、お七の着付もあでやかなおせんだった。
紫の香煙が、ひともとすなおに立昇って、南向きの座敷は、硝子張の中のように暖かい。
七年目で会った、たった二人の世界。殆んど一夜のうちに生気を失ってしまった菊之丞の、なかば開かれた眼からは、糸のような涙が一筋頬を伝わって、枕を濡らしていた。
「おせんちゃん」
菊之丞の声は、わずかに聞かれるくらい低かった。
「あい」
「よく来てくれた」