Classici giapponesi con furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Leggi おせん di 邦枝 完二 (くにえだかんじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 74.074 caratteri · 148 schermate
このまま引いてしまったら、折角鍛えたおのが芸を、根こそぎ棄てなければならぬ悲しさ。それゆえ、秋の野に鳴く虫にも劣る、はかない月日を過ごして来たが、……おせんちゃん。それもこれも、今はもうきのうの夢と消えるばかり。所詮は会えないものと、あきらめていた矢先、ほんとうによく来てくれた。あたしゃこのまま死んでも、思い残すことはない。――」
「もし、吉ちゃん」
「おお」
「しっかりしておくんなさい。羞かしながら、お前がなくてはこの世の中に、誰を思って生きようやら、おまえ一人を、胸にひそめて来たあたし。あたしに死ねというのなら、たった今でも、身代りにもなりましょう。――のう吉ちゃん。たとえ一夜の枕は交さずとも、あたしゃおまえの女房だぞえ。これ、もうし吉ちゃん。返事のないのは、不承知かえ」
一膝ずつ乗出したおせんは、頬がすれすれになるまでに、菊之丞の顔を覗き込んだが、やがてその眼は、仏像のようにすわって行った。
「吉ちゃん。――太夫さん。――」
「お、せ、ん――」
「ああ、もし」
おせんは、次第に唇の褪せて行く菊之丞の顔の上に、涙と共に打ち伏してしまった。
隣座敷から、俄に人々の立つ気配がした。