Classici giapponesi con furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Leggi おせん di 邦枝 完二 (くにえだかんじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 74.074 caratteri · 148 schermate
町。夏ならば、すいと飛びだす迷い蛍を、あれさ待ちなと、団扇で追い寄るしなやかな手も見られるであろうが、はや秋の声聞く垣根の外には、朝日を受けた小葡萄の房が、漸く小豆大のかたちをつらねた影を、真下の流れに漂わせているばかりであった。
池と名付ける程ではないが、一坪余りの自然の水溜りに、十匹ばかりの緋鯉が数えられるその鯉の背を覆って、なかば花の散りかけた萩のうねりが、一叢ぐっと大手を広げた枝の先から、今しもぽたりと落ちたひとしずく。波紋が次第に大きく伸びたささやかな波の輪を、小枝の先でかき寄せながら、じっと水の面を見詰めていたのは、四十五の年よりは十年も若く見える、五尺に満たない小作りの春信であった。
おおかた銜えた楊枝を棄てて、顔を洗ったばかりなのであろう。まだ右手に提げた手拭は、重く濡れたままになっていた。
「藤吉」
春信は、鯉の背から眼を放すと、急に思いだしたように、縁先の万年青の葉を掃除している、少年の門弟藤吉を呼んだ。
「へえ」
「八つぁんは、まだ帰って来ないようだの」
「へえ」
「おせんもまだ見えないか」
「へえ」
「堺屋の太夫もか」
「へえ」
「おまえちょいと、枝折戸へ出て見て来な」