Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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オリンポスのかじつ

オリンポスの果実

田中 英光

Leggi オリンポスの果実 (オリンポスのかじつ) di 田中 英光 (たなかひでみつ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 75.277 caratteri · 147 schermate

Aozora Bunko

その頃の流行歌の一節に、≪花は咲くのになぜ私だけ、二度と春みぬ定めやら≫というのがありました。ぼくは其処のところが、奇妙に好きで、誰もいないのを幸い、何遍も何遍もかけ直しては、面をたれて、歌をきいていました。

逢魔ヶ時という海の夕暮でした。ぼくは電燈もつけず、仄暗い部屋のなかで、ばかばかしくもほろほろと泣いてみたい、そんな気持で、なんども、その甘い歌声をきいていました。その時ひょいと顔をあげると愕然としました。あなたの仄白い顔が、窓から覗いているのです。あんなに捜してもみつからなかったのに、一体どこにかくれていたんです、とも言いたく、お元気でなによりですと、喜んでもあげたかった。

が、驚きのほうが強く、まじまじ目を見開いているぼくの顔にあなたは「ぼんち、今晩は」と笑いかけ、寂しさに甘えようとしているぼくの表情が判ると、ふッと身体を乗りだし「そんなとこで、なにしてんの。ホホ……」と少しヒステリカルに笑い、顔見合せると急に笑い止んで、やるせない沈黙の瞬時が流れましたが、ふっと表情をかえたあなたは「ぼんち映画みに行かないの」といい棄てたまま、くるりと身を翻えし、甲板の端の映画場のほうへ行ってしまいました。