Classici giapponesi con furigana
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キャラコさん
キャラコさん
久生 十蘭
Leggi キャラコさん di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 14.444 caratteri · 30 schermate
遠くから庭下駄の音が近づいて来た。玄関から女中が顔をだす。
「ああ、そうか。よし、よし、すぐゆく」
キャラコさんのほうへ振り返って、
「いますぐ来ますから、あなた、ひとりで入っていてちょうだい。税務署からひとが来たから……」
そういい捨てて、女中と二人で母屋のほうへ行ってしまった。
キャラコさんが、書斎の入口に立つ。息づまるような瞬間がきた。
書斎のなかは、妙にしんとしずまりかえり、時々、かすかに小鳥の翔の音がきこえるほか、なんの物音もひびいて来ない。
数寄屋づくりの檐の深い建物なので、日射しは座敷の中まで届かない。窓のそとは、くゎッと明るくて、樹々の葉も、庭土も、白く燃えあがっているのに、部屋の隅々はおんどりとうす暗くていろいろな家具が、畳の上によろめくような翳を落している。なんとなく妖しげで、これから犯罪が行なわれようとするのに、うってつけの場面である。
大きな本棚の中で本が立ったり寝ころんだりし、鳥箱や、鳥籠や、雀の巣などが雑然と載っている。その横に、ニスの剥げた大きな書机が、こちらへズラリと抽斗の列を見せて、ゆったりと坐っている。
一瞥しただけで、急に胸がドキドキしはじめる。