Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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いちのくらさわ

一の倉沢

久生 十蘭

Leggi 一の倉沢 (いちのくらさわ) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 6237 caratteri · 13 schermate

Aozora Bunko

とても、つきあいきれないわ」

「そんなら、谷川岳へ行くなんて言わずに、すうっと出て来い……メチオニンを忘れずに。注射器も」

「はい、わかりました……きょうはタクシーに乗ってもいいでしょう。ギリギリになるかもしれないから」

汽車がトンネルに入ってしまうと、湯檜曽川の瀬音が急に高くなった。菱苅と初枝のあとから、リュックにザイルを小付けにした十人ばかりの一団がホームに降りてきたが、キチンとネクタイをつけた老朽サラリーマンと、サブ・ザックをショルダー・バッグのように肩にかけた娘の組みあわせが異様に見えたらしく、不審そうな眼差でチラチラと見て行った。

丘の上にある土合の「山の家」は、いぜんは素朴な山小屋だったが、その後、建てなおしたのだとみえて、しゃれたバンガロオになっていた。

「お世話になります」

菱苅と初枝が入って行くと、小屋のあるじらしい青年が立ってきて、炉端の床几に二人の席をつくってくれた。

「三十年も前のことだが、嘉助さんにはえらいお世話になった……ご健在かね」

「おやじは、先年、亡くなりました」

「それはそれは……」

先代が生きていたら、なにかと便宜があるだろうと期待していただけに、菱苅は腰をおとすほど落胆した。