Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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いちや

一夜

夏目 漱石

Leggi 一夜 (いちや) di Natsume Sōseki (夏目 漱石) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 6011 caratteri · 13 schermate

Aozora Bunko

と丸い男は椀をうつ事をやめて、いつの間にやら葉巻を鷹揚にふかしている。

五月雨に四尺伸びたる女竹の、手水鉢の上に蔽い重なりて、余れる一二本は高く軒に逼れば、風誘うたびに戸袋をすって椽の上にもはらはらと所択ばず緑りを滴らす。「あすこに画がある」と葉巻の煙をぷっとそなたへ吹きやる。

床柱に懸けたる払子の先には焚き残る香の煙りが染み込んで、軸は若冲の蘆雁と見える。雁の数は七十三羽、蘆は固より数えがたい。籠ランプの灯を浅く受けて、深さ三尺の床なれば、古き画のそれと見分けのつかぬところに、あからさまならぬ趣がある。「ここにも画が出来る」と柱に靠れる人が振り向きながら眺める。

女は洗えるままの黒髪を肩に流して、丸張りの絹団扇を軽く揺がせば、折々は鬢のあたりに、そよと乱るる雲の影、収まれば淡き眉の常よりもなお晴れやかに見える。桜の花を砕いて織り込める頬の色に、春の夜の星を宿せる眼を涼しく見張りて「私も画になりましょか」と云う。はきと分らねど白地に葛の葉を一面に崩して染め抜きたる浴衣の襟をここぞと正せば、暖かき大理石にて刻めるごとき頸筋が際立ちて男の心を惹く。

「そのまま、そのまま、そのままが名画じゃ」