Classici giapponesi con furigana
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ななかいのじゅうにん
七階の住人
宮本 百合子
Leggi 七階の住人 (ななかいのじゅうにん) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 7128 caratteri · 15 schermate
深夜、七階の彼女の窓へ聞えるのは、ホースで水をはじかす音、ガリ、ガリと石敷道を何か金物の道具で引かく淋しい音ばかりだ。覗いても、燈の消えた向いのアパアトメントの暗い窓々しか視野に入って来ない。人は見えない。次の朝になると、上へ行くほど坂になり、涯には海でもありそうに展望を利かして、青空に折れ込んだ街路が、昨夜の記憶などけろりとなく横わっている。そういう大都会独特な、姿のない働き人。伸子は不思議なような陰気なような気持がした。
伸子は、また訊いた。
「ね、ミセス・コムプスン、貴女もここに棲んでいらっしゃるの?」
「いいえ、私はつい近処に別に部屋を持っていますんですよ」
少し息ぎれがするような調子であった。
「家の方がたと?」
「No, dear, I am living all alone.」
「まあ――一人ぼっち?」
「ええ一人ぼっち――一人っきりなのです」
ミセス・コムプスンは、言葉の重みを計るようにゆっくり頷きながら答えた。が、赤い頬辺の微笑は、長者的な落付きで一層濃(こま)やかになった。彼女が、もう何十年かそういう暮しをして来たことを、伸子は理解した。