Classici giapponesi con furigana
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『ケプロン・くろだのこうそう』について
中谷宇吉郎集 第八巻
中谷 宇吉郎
Leggi 中谷宇吉郎集 第八巻 (『ケプロン・くろだのこうそう』について) di 中谷 宇吉郎 (なかやうきちろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 85.890 caratteri · 178 schermate
「こうばく蟹がきたから」と電話をかけると、どんなに御座敷の忙しい時でも、万難を排して、ご自身で私の家までやって来てくれる。もっとも代理に食べてもらったのでは、味は通じないからであろう。
この二、三日前の話であるが、池島君が、女房にこうばく蟹の催促をしたそうである。「奥さん、まだ蟹きませんか。一ぴき千円でもいいから、あの蟹食べたいなあ」と言った由である。こうばく蟹は、今いくらするか知らないが、私の子供の頃は、一ぴき五銭であった。今の円価にしても、漁師の一日の収入から考えてみて、一ぴき二十円だったら、漁師はそう貧乏しなくてもいいであろう。
一方、一ぴき千円でも欲しいという人もある。もちろん一ぴき千円だったら、池島君も買えないだろうが、少なくもこの言明は、彼のこうばく蟹に対する執心の程度を表明していることにはなる。
この話があって以来、うちの女房は、こうばく蟹に対する食欲を、だいぶ減少させたそうである。「あんなに言って下さる方があると、自分で食べる気がしなくなるので」というのである。
昔から母性愛の強い女であったが、この年になって、まだそういうことを言うのであるから、女の母性愛というものは、恐ろしく根強いものである。