Classici giapponesi con furigana
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ひみつ
刺青・秘密
谷崎 潤一郎
Leggi 刺青・秘密 (ひみつ) di 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 32.935 caratteri · 66 schermate
私の家にはもう乳母を抱えて置く程のお金がなくなったのだ。それどころか、私は毎日お父さんやお母さんを助けて、一緒に働かなければならない。水を汲んだり、火を起したり、雑巾がけをしたり、遠い所へお使いに行ったり、いろいろの事をしなければならない。
もう、あの美しい錦絵のような人形町の夜の巷をうろつく事は出来ないのか。水天宮の縁日にも、茅場町の薬師様にも、もう遊びに行く事は出来ないのか。それにしても米屋町の美代ちゃんは今頃どうして居るだろう。鎧橋の船頭の忰の鉄公はどうしただろう。蒲鉾屋の新公や、下駄屋の幸次郎や、あの連中は今でも仲よく連れだって、煙草屋の柿内の二階で毎日々々芝居ごっこをして居るだろうか。もうあの連中とは、大人になるまで恐らくは再び廻り遇う時はない。それを考えると恨めしくもあり情なくもある。だが、私の胸を貫いて居る悲しみは単にそのためばかりではないらしい。ちょうどこの松並木の月の色が訳もなく悲しいように、私の胸には理由の知れない無限の悲しみが、ひしひしと迫って居るのである。なぜこのように悲しいのだろう。そうして又、それ程悲しく思いながらなぜ私は泣かないのだろう。