Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

Leggi 夜の靴 (よるのくつ) di 横光 利一 (よこみつりいち) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 107.056 caratteri · 213 schermate

Aozora Bunko

私は少しふざけたくなった。

「もう駄目かもしれんぞ。云っとくことはないかい。」私は子供の足音が消えると訊ねた。

「あるわ。」

「云いなさい。」

「でも、もう云わない。」

爆発する音響がだんだん身近く迫って来る様子の底だった。

「それなら、よしッ。」

と、私は照明弾の明るさで、最後の妻の顔をひと眼見て置こうと思い、次ぎの爆発するのを待って起き上った。

「お母さん。」また声がする。

「出て来ちゃ、いかん。大丈夫だよ。」

私は大きな声で云いながらも、あの壕の中の二人さえ助かれば、後は、――と思った。すると、また一弾、ガラスが皺を立てて揺れ動く音がした。

「後はどうにかなるさ。」

「そうね。」

水腫れのように熱し、ふくれて見える妻のそういう貌が、空の耀きでちらッと見えた。心配そうというよりも、どこかへ突き刺さったままさ迷うような視線である。今ごろここで妻がおかしかったと云うのは、そのとき妻の見た私の座蒲団姿のことを云うのだが、私のおかしかったというのは、危険の迫るたびに、のこのこ壕の中から出て来た子供のことである。私はその危険だった夜から四日目の夜、妻と子供を無理矢理に東北へ疎開させ、私一人が残っていた。