Classici giapponesi con furigana
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ろうじゅうのめがね
小笠原壱岐守
佐々木 味津三
Leggi 小笠原壱岐守 (ろうじゅうのめがね) di 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 57.249 caratteri · 115 schermate
立ちあがろうとしたのを、慌てて新兵衛は、目交ぜで止め乍ら、まだなにか言いたそうに、もじもじとしていたが、平七の顔いろを窺い窺い、女を隣りの部屋へつれて行くと、小声でひそひそとなにかささやいた。
ぱっと首すじまで赤く染め乍ら、女は、顔をかくすようにして、下へおりていった。
しかし平七は、なにが目に這入ろうとも、まるで感じのない男のように、ぐったりと両手の中へ頤をのせたまま、物も言わなかった。
やがて、その頤のまえへ酒が運ばれた。
「さあ来たぞ。うんとやれ」
「…………」
「どうしたんじゃ。飲まんのかよ。――機嫌のわるい顔をしておるな。注いでやろうか」
なみなみと新兵衛が注いだ盃を、だまって引き寄せると、だまって平七は口へ持っていった。
別に機嫌がわるいわけではなかった。酒にさえも、平七の感情は、今もうこわばって了って、なんの反応もみせなかった。いや、反応がないというよりも、むしろそれは、表情を忘れて了ったという方が適切だった。急激に自分たちの世界を打ち壊されて了って、よその国のよその軒先に、雨宿りしているようなこの六七年の生活が、それほども平七の心から、肉体から、弾力を奪いとって了ったのである。