Classici giapponesi con furigana
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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
Leggi 尾崎士郎短篇集 (あきかぜとはは) di 尾崎 士郎 (おざきしろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 108.032 caratteri · 216 schermate
急に母はぐったりと首をうなだれたまま動かなくなった。脊骨の両側の薄い肉がたるんで、無気味な感触が私の掌に沁みついてきた、窓の前にひろがっている無花果の葉の青い色が真昼の大気の中で硬直したように動かなかった。
母が急に両足を突っ張った。
「ああ、あ、あ、――便器、便器は無いかの?」
便器は何処にあるかわからなかった。
「ちょっと待っておいで、――探してくるからね」
「そいじゃあ、すまんがな、ここでやるからの――」
その声には何かしら心のぬくもりが感ぜられた。私は不意に母がいとおしくなったのだ。母は腹を圧えながらいきみ続けた。便泌がすむと私は汗のためにねっとりしめっている寝衣の裾をまくって鼻紙で汚物をふきとってやりながら一瞬間、何か妻に対して悪いことをしているような気がした。若し妻だったら母はもっと遠慮するにちがいない。自分は妻を出しぬいて眼に見えない骨肉の親しみをぬすんでいるという気持の中にかすかなうしろめたさを感じないでは居られなかった。僅かな便泌のために母は少し生気をとり戻したらしかった。それだけに呻き声は一層強くなった。それは彼女を圧えつけている肉体の苦しみから漸くはね上ろうとしている彼女の心を感じさせた。